実射影空間 (位相の入れ方 ~ 射影平面の4次元線形空間への埋め込み)
イントロダクション
$mathbf{R}^{n+1}$ の原点を通る直線(1次元線形部分空間)の全体を実射影空間 $mathbf{R}P^n$ と呼ぶ。
このシリーズでは、実射影空間に位相・距離・多様体・計量などの構造を入れて、幾何学的・解析的な性質を見ていく。
位相の入れ方
$mathbf{R}P^n$ に位相を入れる方法を3種類紹介する。証明は省くが、これらはすべて同じ位相を定める。
なす角距離
$mathbf{R}P^n$ の元同士は原点で交わる。そこで、$L_0,L_1 in mathbf{R}P^n$ のなす角を $d(L_0,L_1)$ で表すことにする。
この関数 $d colon mathbf{R}P^n times mathbf{R}P^n to [0,pi/2]$ は距離の公理を満たすため、これを用いて $mathbf{R}P^n$ を距離空間とみなす。
特に、$mathbf{R}P^n$ は距離空間なので Hausdorff 空間である。
$L_0$と$L_1$のなす角を距離$d(L_0,L_1)$とおく
線形空間から原点を抜いたものを実数倍の作用で割る
各 $L in mathbf{R}P^n$ は集合として、原点以外の点 $p in L$ を固定することで $L = text{{ $rp mid r in mathbf{R}$ }}$ とできる。
従って、 $mathbf{R}P^n$は$mathbf{R}^{n+1}$ の $0$ でない元の全体 $mathbf{R}^{n+1} smallsetminus text{{$0$}}$ から実数倍の差を除いた空間となる。
[
mathbf{R}P^n cong (mathbf{R}^{n+1} smallsetminus { 0 }) / mathbf{R}^times
]
この同一視を用いて $mathbf{R}P^n$ に商位相を入れることができる。
点 $x = (x_0,dots,x_n) in mathbf{R}^{n+1} smallsetminus text{{$0$}}$ を含む同値類を $[x_0:dots:x_n] in mathbf{R}P^n$ で表す。
直線の原点以外を同一視する
球面上の対蹠点を同一視する
$mathbf{R}^{n+1}$ の原点を通る直線$L$は、単位球面 $S^n$ と必ず2つの交点を持ち、片方の交点はもう片方の交点の $-1$ 倍になっている。
従って、$mathbf{R}P^n$ は $S^n$ から $pm 1$ 倍の差を除いた空間となる。
[
mathbf{R}P^n cong S^n / {pm 1}
]
この同一視を用いて $mathbf{R}P^n$ に商位相を入れることができる。
特に、$S^n$ からの商位相であることから、 $mathbf{R}P^n$ はコンパクト空間になる。
対蹠点を同一視する
可微分構造を入れる
$mathbf{R}P^n$ に可微分構造を入れる方法を2種類紹介する。これらはいずれも同じ可微分構造を定める。
球面の多様体構造から誘導する
群作用 $S^n curvearrowleft text{{$pm 1$}}$ はコンパクト群からの固定点自由で滑らかな作用であるから、$mathbf{R}P^n$は多様体になることがわかる。
同次座標系
各 $k = 0,dots,n$ に対して開集合
[
U_k := { [x_0 : dots : x_n] in mathbf{R}P^n mid x_k neq 0 }
]
を定めて、写像 $varphi_k colon mathbf{R}^n to U_k$ を
[
varphi_k(x_0,dots,x_{k-1},x_{k+1},dots,x_n) = [x_0 : dots : x_{k-1} : 1 : x_{k + 1} : dots : x_n]
]
で定める。このとき、これは同相写像になるので、$varphi$ の逆写像 $u_k colon U_k to mathbf{R}^n$ を定める。
このようにして定義される局所座標系 ${ (U_k,u_k) }_{k = 0}^n$ を $mathbf{R}P^n$ の同次座標系と呼ぶ。
$n = 2$のときに$varphi_2$は平面$x_2 = 1$への透視投影とみなせる
有理関数を用いて実射影空間上に写像を定める
$mathbf{R}P^n cong( mathbf{R}^{n+1} smallsetminus text{{$0$}}) / mathbf{R}^times$ の同一視から、以下の定理が成り立つ。[/vc_column_text][vc_column_text]
滑らかな関数 $f colon mathbf{R}^{n+1} smallsetminus text{{$0$}}to mathbf{R}$ が次式を満たすとする。
[
f(rx) = f(x) hspace{12pt} (x in mathbf{R}^{n+1} smallsetminus {0}, r in mathbf{R}^times)
]
このとき、滑らかな関数 $bar{f} colon mathbf{R}P^n to mathbf{R}$ が唯一つ存在して、次式が成り立つ。
[
bar{f}([x_0:dots:x_n]) = f(x_0,dots,x_n) hspace{11pt} (x = (x_0,dots,x_n) in mathbf{R}^{n+1} smallsetminus {0})
]
この定理を用いて、斉次多項式の有理関数によって $mathbf{R}P^n$ 上の関数を構成することを考える。
斉次多項式とは、以下の多項式のように、各項の次数が一定の多項式である。
[
x^2 + y^2, hspace{12pt} x^3 + yz^2 hspace{12pt} 3x^4 + 4y^2z^2 + 6yz^3
]次の命題が成り立つ。
$p,q$ は次数を同じくする $n+1$ 変数斉次多項式であり、$q(x) neq 0 hspace{5pt} (x in mathbf{R}^{n+1} smallsetminus text{{$0$}})$を満たすとする。このとき、
[
f(x) := frac{p(x)}{q(x)} hspace{11pt} (x in mathbf{R}^{n+1} smallsetminus {0})
]
に対して滑らかな関数 $bar{f} colon mathbf{R}P^n to mathbf{R}$ が唯一つ存在して、次式が成り立つ。
[
bar{f}([x_0:dots:x_n]) = f(x_0,dots,x_n) hspace{11pt} (x = (x_0,dots,x_n) in mathbf{R}^{n+1} smallsetminus {0})
]
証明
斉次多項式 $p$ は
[
p(rx) = r^{deg p} p(x) hspace{12pt} (x in mathbf{R}^{n+1}, r in mathbf{R})
]
を満たすので、
[
f(rx) = f(x) hspace{11pt} (x in mathbf{R}^{n+1} smallsetminus {0}, r in mathbf{R}^times)
]
が容易にわかる。あとは商空間の普遍性を適用すればよい。
3変数の4次斉次多項式の比によって定義される
[
f(x,y,z) = frac{x^4 + y^3z}{x^4 + y^4 + z^4}
]
は $mathbf{R}P^2$ 上の関数を誘導する。
射影平面の4次元線形空間への埋め込み
有理式を用いた $mathbf{R}P^n$ 上の関数の例として、射影平面 $mathbf{R}P^2$ の $mathbf{R}^4$ への埋め込みを構成する。
これは、3次元空間の直線の全体が4個のパラメータを用いてダブり無くパラメトライズできることを表している。
命題
$mathbf{R}^3$ 上の有理関数として以下の4つの関数を考える。
- $displaystyle f_0(x,y,z) = frac{yz}{x^2 + y^2 + z^2}$
- $displaystyle f_1(x,y,z) = frac{xz}{x^2 + y^2 + z^2}$
- $displaystyle f_2(x,y,z) = frac{xy}{x^2 + y^2 + z^2}$
- $displaystyle f_3(x,y,z) = frac{x^2 + 2y^2 + 3z^2}{x^2 + y^2 + z^2}$
このとき、$F = (bar{f}_0,bar{f}_1,bar{f}_2,bar{f}_3) colon mathbf{R}P^2 to mathbf{R}^4$ は埋め込みである。
これの証明には煩雑な計算が必要なので、ここでは省略する。参考文献に挙げた Spivak の本に詳細が載っている。
参考文献
- 松本幸夫、「多様体の基礎」、東京大学出版会
- M. Spivak, “A Comprehensive Introduction to Differential Geometry,” vol. I, Publish orPerish, Inc. Berkeley